吉岡実の手蹟〔詩篇〈永遠の昼寝〉の清書原稿〕
吉岡実の手蹟〔詩篇〈永遠の昼寝〉の清書原稿〕

永遠の昼寝(未刊詩篇・19)

初出は図録《永遠の旅人 西脇順三郎 詩・絵画・その周辺》(新潟市美術館刊)1989年4月1日、〈西脇順三郎賛歌〉一三一ページ、本文10ポ2段組、25行。自筆詩稿が《永遠の旅人 西脇順三郎 詩・絵画・その周辺》展(会場=新潟市美術館/会期=1989年4月1日【土】〜5月14日【日】)に展示された。

コオロギが鳴いて
        (宇宙の淋しさを
  告げ始める)
        秋の日の野原を行く
わたしは旅人
      (茶室的な岩から出る
 泉を飲む)
      心の淋しい時は
意識の流れに沿って
         漂泊するんだ
(非常な美人の医師が来る)
             赤と白の
ホウセンカの咲く
        ここは故里かも知れない
聖賢の書を読み
       わたしは思索にふける
(いかにして
      死を諦める
           ことができるか)
旅籠屋のつめたい畳で
          昼寝をしたようだ
(誰かがわたしの
        頭のうえを
             杏の実をもって
        たたいた)